元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜
 夜の病院の廊下は、明かりがともっているけれどもとても静かだ。その廊下を、夜間出入口に向かってよろよろと歩く。

 颯麻が助かって安堵する気持ちはもちろんある。
 けれど、母なしでは判断できなかった悔しさが後から湧いてきた。

 私はまた、一人じゃ何もできなかった。
 母がいなかったら、救急車を呼ぶこともできなかった。

 パニックになった私は、言われるがままにしかできなかった。
 大輝がいなくて、余計に心が沈んだ。

 勝手に大輝を心のよりどころにしている。
 憧れの相手。あんな風になりたいと思える相手。
 だから、私は彼に近づきたかったのに。

 少しでも近づいたと思った自分を恥じた。
 結局私は、一人では何もできない。

 ため息をこぼし、でもしっかりしなきゃと前を向く。
 タクシー呼んで、入院準備して、早く戻って来よう。

 そう思った時、夜間出入口の街灯の下に、大柄な人の影が見えた。その影は、私に気づいて軽く手を挙げる。

「よ、梓桜」

 大輝が、そこに立っていた。
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