元カレ消防士からの爽やかな溺愛 〜厚い胸と熱い思いで家族ごと愛されて〜

10 優しすぎる勘違い

「お疲れ様です」

 大輝は夜間出入口から、こちらに軽く頭を下げる。
 その服装はいつもの隊服ではなく、私服だ。ジーンズに、上は黒いダウンジャケットを着ている。
 鼻の先が赤くなっているのは、きっと外が寒いからだろう。

「大輝、どうして……?」

 驚きで立ち止まってしまった。けれど、すぐに慌てて大輝の元に駆け寄った。

「書類仕事終わんなくて、残業してたら119。梓桜んちの住所だったから、ちょっと職権乱用して、様子見に来た」

「別に、いいのに……」

「俺的にはよくなかったの。頼れって連絡先渡したのに、一向に連絡してこないし。おばさんは? 今一人? なら、ちょうどいいから送って……」

 大輝の言葉が途切れた。
 私の涙が溢れてきてしまったからだと思う。

 みっともない。憧れの大輝に、泣いている姿なんて見られたくないのに。

 ひっくひっくと肩が揺れてしまう。
 止まれ、止まれと思うのに、堪えられなくて涙が溢れ続ける。
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