愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
彼が十九歳になったときだった。
上官から密かに呼び出された。
国王にしっぽを振って出世した上官だった。
ヒルデブラントは嫌悪を押し殺して必死に彼に仕え、信頼を得ていた。
だから、いつかこうなるだろうと予測していた。
「お前を見込んで頼みがある」
「なんなりと」
ヒルデブラントは答える。
「邪魔な男がいてな。消えてもらいたいと陛下はお考えなのだ。わかるな?」
「御意にございます」
ヒルデブラントは男の名を聞いた。
四十七にして宰相にまで出世した知性派の男、レギー・トバイアス。国王の専横をやんわりと止めている、という噂も漏れ聞いていた。
数日後、宰相は血にまみれて発見された。顔を何度も殴られた上、刺殺されていた。
強盗の仕業と断じられ、形ばかりの捜査をされて終わった。
宰相を消し去った晩、ヒルデブラントは震えた。
とうとう、この手で実行した。エルシェを救うため、具体的な一歩を踏み出したのだ。
クライヴが知ったら悲しむだろう。胸がチクリと痛んだ。だが、彼には師よりも大切な存在がいる。
彼は再度、心に誓う。
命を賭して、必ず王女殿下を助ける、と。
その後も彼には汚い仕事が任された。
ヒルデブラントが王の犬となって邪魔者を消している。
それは噂となり、本人である彼にも届いた。
誰かが意図的に流している、と気が付いたが放っておいた。
敵意を彼に集め、国王や奸臣への不満を逸らそうとしているのだろうと察した。
彼が暗殺をした証拠はないし、王につながる自分を捕まえることもできやしない。
ヒルデブラントは剣の腕も立つ。正義に燃えた人物がいたとしても、闇討ちする者などいなかった。
旧時代の騎士道に準じる愚かな騎士、と笑う者もいた。
だが、なにを言われようとかまわなかった。
犬を演じ、信頼を勝ち取る。まずはそれが肝要だった。