愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
 彼は死神としてさらに恐れられるようになった。
 翌年、武闘大会の連勝を果たすと、誉を讃える建前で爵位が与えられた。
 彼は伯爵になり、次には侯爵になった。
 爵位が上がるにつれ、周囲に人が増えた。
 彼の目をほめそやす者も現れ始めた。
 逞しく美しい青年となった彼に秋波を送る女性も現れた。
 ヒルデブラントは内心を読ませず、すべて笑顔でかわした。
 父であるカーライル子爵は、急に彼を息子として扱うようになった。
 侮蔑を隠し、ヒルデブラントは良き息子を装った。
 すべてはエルシェを救うため。些事で足元を掬われたくなかった。



 ヒルデブラントは爵位が上がるとともに、近衛に引き上げられた。
 格段の出世だった。
 彼は近衛の仕事に加え、暗殺も続けた。
 ハリクスの苛政(かせい)は悪化する一方だった。淫蕩や遊興にふけり、片手間に(まつりごと)を行った。
 王妃であるマデリエは諫めることなく驕奢(きょうしゃ)をほしいままにした。何着ものドレスを仕立て、宝飾品をねだり、何人もの吟遊詩人(ミンストレル)を雇い、何人もの愛人を囲った。
 近衛に配属された直後、ヒルデブラントも彼女から品定めの目を向けられた。が、すでにお気に入りがいた彼女の食指が伸びることはなかった。
 政治は当然のように腐敗した。賄賂や讒言(ざんげん)が横行し、富める者はさらに富み、貧しいものは困窮を極めた。
 騎士たちもまた乱れた。
 もはや忠誠を誓うべき立派な君主はおらず、名誉や神への奉仕などという腹を満たさないものに用はなかった。小さな武闘大会なら、主催者を買収して優勝者の地位を買うことができた。
 騎士は荒くれ者と大差なく民衆に嫌われ始めていた。
 その中において、ヒルデブラントの師であるクライヴだけが騎士然としていた。



 あるとき、クライヴが険しい顔でヒルデブラントのもとを訪れた。
 昼の休みを得ていたヒルデブラントはクライヴとともに中庭に向かった。小さな噴水があり、周囲を花壇と芝生が幾何学模様に囲んでいた。
「お前が暗殺の依頼を受けていると聞いた。本当か」
 きかれたヒルデブラントは薄く笑った。
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