愛より深く奥底へ 〜救国の死神将軍は滅亡の王女を執愛する〜
「ただの噂ですよ」
「お前には騎士道を教えて来た」
「君主への忠誠と武勇。私はそれに準じております」
「盲目的に従うことが騎士道ではない!」
「……あなたの目指す騎士道は時代遅れ、もはや崩壊しました。武勇が金で買われ、騎士こそが弱者を蹂躙し、搾取する。そのような世でなにに準じるというのですか」
 ヒルデブラントの言葉に、クライヴは唖然とした。
「国王もまた騎士であらせられる。国王の示す道こそが新たな騎士道なのでは?」
「断じて違う! 人を虐げる道が騎士道でなどあるものか!」
 クライヴは険しい顔をさらに険しくする。
「だが、あなた自身があなたの思う騎士道に準じておられない。非道を行う騎士たちを止めることなく、正しきを唱えながら実行できない机上の理想論など、私には必要ない」
「ヒルデブラント、お前に汚れてほしくなどないのだ」
 苦し気に、クライヴは言う。
「あなたになにもできないことは知っています。私がやりとげることを黙って見ておられればいいのです」
 ヒルデブラントは嘲笑を残し、彼のもとを辞した。
 悲しく見上げた空は、いっそ憎らしいほどに青く輝いていた。
 クライヴが騎士をやめたと聞いたのは、しばらく後のことだった。

***

 エルシェは言葉を失った。
 彼は自分を助けるために人を殺したと言うことになる。
 それは、もはや自身の罪のように重く彼女にのしかかった。
「殿下は気に病まれませんよう。私が、私の責において行ったことです」
 彼の目が蝋燭にギラリと光る。

***

 ヒルデブラントが二十三歳、エルシェが十四歳のときだった。
 国を飢饉が襲った。
 国王一家の豪奢(ごうしゃ)によって危機に瀕していた国庫は、国民を助ける余裕などなかった。
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