イルカの見る夢

 水中で泳いでいたルビーは、寄り添うようにして悲しむ真凛のそばまでやってくる。
 直接会話をすることなどできない。だが、真凛は誰よりも自分のことを理解してくれているのはルビーなような気がした。
 そしてルビーも同じように、真凛が自身のことを理解していると思っている。
 喜びも悲しみも、すべてふたりは共有する。唯一無二の存在。

 『やぁ、矢代さん。久しぶりだね』

 『!』

 突然姿を現した斗李に、真凛は恐怖で言葉を失う。
 館長ももちろん真凛から一連の話を聞いているが、巨額の運営資金が斗李から流れているというのもあり、強く出れないでいたのは彼女も気づいていた。だからお咎めもなく、こうして水族館をうろうろしているのは知っていたが、堂々と現れるのは本当に久しぶりだった。

 『そんなに怯えた顔をしないでよ。僕は何も君に危害を加えたりなどしない』

 『あの、以前念書を書いていただきましたよね? 私の前には現れないと』

 真凛が必死で声を振り絞り警戒を露にするが、斗李は薄ら笑いを浮かべるだけで動じていない様子だった。

 『そんなことあの内容には書いていなかった。〝長谷君と君の前には〟とは書いてあったが、もう彼はここにはいないようだし、構わないだろう』


 斗李の言葉に、真凛は血の気が引いた。
 なぜ斗李が長谷がいなくなったことを知っているのだろう。
 そしてあれだけ拒否の気持ちを伝えたというのに、全く彼女の気持ちを無視するような行動に、絶望した。

 『……勝彦さんは、どうしていなくなったんですが?』

 真凛は震える声で、なんとか言葉を紡ぐ。
 斗李はそんな彼女の様子に一瞬動きを止め、ふっと乾いた笑い声を上げた。

 『僕が知る由もないだろう』

 『うそよっ、あなたが手をまわしたんでしょう。私に近づくためにっ……!』
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