イルカの見る夢
心の中に渦巻く、斗李への不信感を真凛はついに爆発させる。
長谷とは何もかもが上手くいっていた。離れていく理由があるとしたら、斗李との問題しか思いつかなかった。
取り乱す彼女を見ても、斗李は全く動じた様子はなく、むしろ憐れむような笑みを浮かべた。
『どんな根拠があって言っているのかな? 本当の愛は、ちょっとやそっとじゃ変わらないのでは? 君たちの関係が壊れたのは僕のせいじゃない。長谷くんの気持ちがその程度だったということだよ』
『な……っ』
『キュー! キュー!』
一歩、また一歩と真凛に近づく斗李に、激しい警戒心を露にするルビー。真凛はルビーの影に隠れるようにして、走って移動する。
『誘惑に負けるような男と将来一緒にいたとしても、苦しむのは君だ』
斗李は明言こそしないが、長谷が〝誘惑に負けた〟とあたかも理由を知っているような言葉を真凛に吐き出す。
彼女は確信した。やはりなんらかの形で長谷を追い出したのは、斗李なのだと。
『あなたなんて、大嫌いよ! たとえ勝彦さんがいなくなっても、あなたとは絶対に一緒にいたくないわ!』
『キューキュー!』
はっきりと斗李の存在を拒否した真凛に、彼は一瞬顔をしかめ、笑顔を無くす。
温度のない瞳でまっすぐ貫かれた真凛は、思わず息をのんだ。
『……そうか。そこまで僕を嫌うのか……誰よりも、世界で一番君を愛しているのにね。とても残念だよ』
『キューキュー!』
それでも斗李は、再び真凛に近づこうとする。
一歩、また一歩と彼女に近づいていく。
すぐそばには、プールに漂うルビーしかいない。誰も、助けには来ない。そして、斗李の手が伸びる。
真凛がひっと喉奥で声を鳴らしたその瞬間だった。
『キュー!!!!!』