追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる


 治療院の二階には、小さな食堂があった。ソフィアさんが言うには、入院患者のための食堂らしい。だが、今はソフィアさん一人の手に負えず、入院は出来ないこととなっている。
 私が来たから入院出来るようになるのだろうか。いや、それにはもっと人が必要かもしれない。

 その食堂の椅子に座り、ソフィアさんが出してくれたハムサンドを食べながら、ようやくゆっくりとソフィアさんと話が出来た。

「アンちゃんは、都会のほうから来たんだよね?
 ここに来たらびっくりするよね、田舎だから」

「いえ!のどかだけど大きな街で、人々も温かくて人情味があって、私好きです!」

 これは本心だった。もちろん、ジョーが育った街だから好きなのかもしれない。だが、王都特有のギスギスした雰囲気や、他人に無関心な雰囲気、せわしなく時間が過ぎていくのとは全然違う。
 治療院は忙しかったが、私はこんな温かい街が好きだ。

「ありがとう」

 ソフィアさんは嬉しそうに笑う。

「昔はね、ここも争いが多くて危ない街だったんだ。怖い人がすぐに入ってくるから、夜道は男性でも歩けないような。
 石造りの頑強な家が多いのも、その名残りなの」

 オストワル辺境伯領の治安が悪かったことは、私も知っている。だが、街の様子を見ると、予想以上に現在は平和らしい。争いのあの字もないようだ。

「この街の騎士団が、すごく強いからですよね?」

 王都で知ったことを告げると、そうなのとソフィアさんは自慢げに笑う。

「ここは国境で危ない人が多かったから、騎士団も強くなきゃならない。
 ジョセフ様が騎士団長になられてから、オストワル辺境伯領騎士団は、国の中でも一番と言われる強さになったわ!」

「……ジョセフ様?」

「ええ、ジョセフ様。
 長い間留守にされていたジョセフ様が帰られたから、この国もまた安泰だわ」

 頷くソフィアさんの言葉に、必死で考えた。ジョセフ様?……ジョーではないよね?
 色々考える私の前で、ソフィアさんが続ける。

「ジョセフ様の剣の腕は、王宮騎士団長よりも上だと言われているわ。でも、そんなに強い人だから、性格も冷たいのよ。
 特に、女性には関心がなくて口も聞いてもらえないわ」

 えっ!?それじゃあ、ジョセフ様はジョーではないだろう。だって、ジョーは甘くて優しくて、私の心をめちゃくちゃにするのだから。
 ジョーよりも強いジョセフ様がいるのなら、この国は本当に安泰だろう。

「あっ、でもね、アンちゃん。あなたって……」

 ソフィアさんが口を開いた時、呼び鈴がけたたましく響いた。がやがやと人の声も聞こえてくる。時計を見ると、なんと開院の時刻を過ぎているのだ。

「あっ、いけない。午後の部開始だわ!」


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