EASY GAME-ダメ男製造機と完璧上司の恋愛イニシアチブ争奪戦ー

fight.2

 初日から、部長の仕事ぶりは、部内の人間全員が圧倒されるほどだった。
 既に有給に入った部長からの引継ぎは、そこまで詳しくなかったようだけれど、それでも、一人一人と言葉を交わし、仕事内容を把握する。
 そして、デスクに戻ると、パソコンとにらめっこしながら、午前中には、あたし達の仕事スケジュールと、タスク管理、引継ぎ内容のまとめなど、あっさりと終了させていたようだ。
 それが終わると、午後からは部屋の書類等の確認作業や、他部署関連の仕事の確認を担当の人間にしていた。
 それも、あっさりと終了したようで、終業間際には、あたし達のデスクをのぞき込みながら、進行中の仕事の内容を把握して回っていた。

「――白山さん。福利厚生担当――で、良いんだな」

「――はい」

 真後ろから声をかけられ、思わずギクリとしてしまう。
 ――頼むから、気づかないで!
 一昨日の事は、もう、掘り返して欲しくないのだから。
「今の作業内容は?」
「――主に、秋に行われる人間ドック、健康診断の予定調整です。全社員分ありますので。後は、各独身寮の入退寮申請受付で、それに関しては随時対応です」
「他は?」
「新規契約事業者との企画の打ち合わせが、来週から始まります。ウチの福利厚生のイベント関係は、あまり利用率が高くないので、その相談も兼ねています」
 部長は、あたしの作業中のパソコンの画面をのぞき込んで、何か言いたそうにしていたが、すぐに、わかった、と、言って隣へ視線を向けた。
 そして、同じような確認をしている。
 あたしは、ホッとしながら、チラリと、部長に視線を向けた。

 ――良かった。この分じゃ、気づかれてない。

 たった一瞬、重なっただけの時間。
 そんなに鮮明に覚えてもいないだろう。

 あたしは、心底安心し、仕事を再開した。


「黒川部長ー、これからご予定ありますかぁー⁉」

 終業ベルが鳴ると同時に、一課の女性陣数人が、まだ仕事をしている部長を囲んだ。
 あたしは、それを見るともなく見やり、そして、また、目の前のパソコンに視線を戻す。
 仕事の合間に探していた部屋は――結果として、満員。
 退去予定も、何も無かった。
 独身寮はもちろん、ちょっと遠くの借り上げマンションや、社宅。
 全部をくまなくチェックしてみたが、当面期待できそうになかった。
 あたしは、大きく息を吐くと、机の上のファイルを整え、片付ける。

 ――……ああ……早く部屋探さなきゃ……。

 スマホのサイトは、今の部屋を探す時に、いくつかブクマしてある。
 そこで探して――見つからなかったら……ホテル暮らし?
 いや、さすがにバカにならない。
 大して貯金がある訳でもないのだ。

「――白山さん」

「へっ……⁉」

 不意に低い声に呼ばれ、思わず背筋を伸ばしてしまう。
 振り返って見上げれば、部長が真後ろに立っていた。
< 7 / 171 >

この作品をシェア

pagetop