私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

「待たせた」
 主任とお風呂を交代してしばらくして、主任が露天風呂から帰って来た。

 私がお風呂から上がった時には、隣り合わせでくっついていた布団は一定の距離を開けて並べなおされていた。
 きっと主任がしてくれたんだろう。
 うん、やっぱり紳士だ。

「おかえりな──!?」

 色気が……色気が溢れている!!
 ほんのり濡れた髪と上気した顔。
 浴衣から覗く逞しい胸元が目の毒です主任……!!

「? どうした?」
「へ!? い、いえ、何も!!」
「そうか? 髪、乾かしてくる」
「あ、は、はは、はいっ!!」

 慌てて視線を逸らすも目に焼き付いて離れない主任の色気溢れる姿に、顔だけじゃなく身体全体が熱くなる。
 落ち着け私。
 あれは鬼だ。
 人じゃない。
 騙されるな。
 魅入られるな。

 主任がドライヤーで髪を乾かしている間、必死で自分を落ち着けようとするも、なかなか霧散されない邪《よこしま》な映像。

「会社への連絡はしておいたから、今日はもう寝るぞ。お前も酒飲みすぎて身体辛いだろう?」
 洗面所からドライヤーの音と共に主任の声が飛んできた。

 主任がもう少し早くに助け出してくれたらこんなに飲んでません、とは怖くて言えない。


「は、はい!! じゃぁ……失礼して……」

 そそくさと横になり布団をかぶる。
 よし、このまま寝てしまえ私。
 そして朝になったらさっさと帰るぞ。

「……」

 眠れない……。
 困った。
 早くしないと主任が──。

「水無瀬? 寝たのか?」

 帰ってきた……!!!!
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