お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「許可を頂ければ、僕が代わりに屋敷内の魔物を一掃しますよ。氷結魔法なら、大した二次被害はないでしょうし。もちろん、この大広間は効果範囲から外します」

「いいのか?一掃してくれたら、こちらとしては非常に有り難いが……」

「はい」

「じゃあ、よろしく頼む。責任は俺が取るから、派手にやってくれ」

 『魔物の襲撃にいい加減、飽き飽きしていたところなんだ』と言い、アレン小公爵は諸手を挙げて賛成する。
『暖房器具などが壊れても構わない』と後押しする彼に、兄は一つ頷いた。
手のひらを下に向けたままグッと前へ突き出し、そっと目を閉じて集中する。
クライン公爵家の構造を既に把握しているのか、彼の魔法に迷いはなかった。

 『すぅー……』と息を吸うのと同時に魔力を放ち、そして吐いた瞬間に屋敷を凍らせる。
無論、大広間を除いて。

「おお、前より格段に魔法の腕が上がってんな〜。さすがはグレンジャー公爵家の嫡男」

 一気に温度が低くなった室内を見回し、アレン小公爵はパチンッと指を鳴らす。
どうやら魔術を展開したらしく、大広間の温度だけ少し上がった。
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