お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ダメだ。危険すぎる。魔物の数は、優に数万を超えるんだぞ?たとえ、どんなに優秀な魔導師でも途中で魔力切れになる(力尽きる)

 『お前に何かあったら、グレンジャー公爵夫妻に顔向け出来ない』と、アレン小公爵は説得した。
────が、兄も案外頑固なので一歩も引かない。

「お言葉ですが、このままでは討伐隊が全滅してしまいます。早急に手を打つべきです」

 『放置は出来ない』と主張する兄に、アレン小公爵は口を噤む。
恐らく、彼自身もこのままではいけないと理解しているのだろう。

「なら、俺が討伐隊の方に向かう。だから、お前達はここに残って屋敷を守ってくれないか?」

「それはあまり現実的な考えじゃないと思います」

 兄は役割交換の提案をバッサリ切り捨て、窓辺に近づいた。
かと思えば、窓ガラスにそっと触れる。

「アレン小公爵も既にお気づきでしょう?クライン公爵家へ差し向けられた魔物の大半が────水属性の魔法を使えることに」

「っ……!」

「恐らく、魔王は優秀な火炎魔法の使い手を多く輩出してきたクライン公爵家の対策として、相性の悪い魔物を差し向けてきています。無論、あなた方の火力なら属性関係なく、焼き払えるでしょうが……今回は数が多い。それこそ、直ぐに魔力切れを引き起こすと思いますよ」

 痛いところをどんどん突いていく兄は、『それに疲労も溜まっているでしょう』と零す。
魔物と交戦してからもう数時間経過していることを指摘し、『限界なのは貴方も同じだ』と突きつけた。
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