お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 どことなく迫力のある眼差しに私はもちろん、アレン小公爵まで圧倒されていると……リエート卿が真っ直ぐ前を見据える。
そして、思案顔の兄を目に映した。

「ニクス、お前いつも言っていたよな。大事なことは感情論抜きで、合理的に考えるべきだって。だから、俺なりに考えてみたんだ。現状で取れる最善策」

「それがリディアからの魔力譲渡だと言いたいのか?」

「ああ。お前もリディアの魔力量が多いのは何となく、分かっているだろ?これだけあれば、グレンジャー公爵が駆けつけるまで持ち堪えられる。なんなら、俺達だけで魔物を一掃出来るかもしんねぇ」

「……」

 クッと眉間に皺を寄せ、黙り込む兄はなんだか困っているように見えた。
恐らく、リエート卿の言い分を覆すだけの材料が見つからないのだろう。
これでもかというほど強く拳を握り締め、苛立つ彼を前に、リエート卿は尚も説得を続ける。

「どうせ、討伐隊が壊滅したらリディアだって戦わなきゃいけないんだ。戦闘から遠ざけることよりも、どうやって戦うか……自分なりの方法を見つけてやることが、最善じゃないのか?」

 『それが結果的にリディアを守ることに繋がる筈だ』と語り、リエート卿は一歩前へ出る。
と同時に、兄の両肩をガシッと掴んだ。

「情けない話なのは、理解している。リディアに負担を掛けずに済むなら、それに越したことはない。でも、冷静に考えて全員生存する道はこれしかないと思っている」

 年下の女の子に頼るしかない状況を申し訳なく思いながらも、リエート卿は切実に訴える。
リディア()の力が必要なんだ、と。
そんな彼を前に、私もまた一歩前へ踏み出した。
< 116 / 622 >

この作品をシェア

pagetop