お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『お願い、お兄様』と祈るような気持ちで返事を待っていると、彼はやれやれと(かぶり)を振った。

「はぁ……筋肉バカと妹に言い負かされるなんて、僕もまだまだだな」

 独り言のようにそう呟き、兄はフッと笑みを漏らす。
月の瞳に呆れを滲ませながらこちらに手を伸ばし、ちょっと乱暴に私の頭を撫でた。

「よし、いいだろう。同行を許可する。ただし、僕の命令には必ず従うこと。いいな?」

「「はい(おう)!」」

 ようやく降りた同行許可に、私とリエート卿は目を輝かせた。
弾けるような笑顔を見せて『やりましたね(やったな)!』と言い合い、ハイタッチする。
すっかり大はしゃぎする私達を前に、兄はふと後ろを振り返った。

「アレン小公爵も、それでよろしいですね?」

「本音を言うと、行かせたくないけど……しょうがないな。これ以上にいい策は思いつきそうにない」

 『降参だ』と言って両手を上げるアレン小公爵は、リエート卿の同行を渋々認めた。
『嫌だ』と突っぱねた結果、苦しむのは自分だけじゃないと分かっているから。
リエート卿をはじめ、この場に居る人達が被害を受ける羽目になる。
ならば、自分の感情を押し殺して送り出すしかないと判断したようだ。
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