お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『叱られてもしょうがない』と考え、私は一つ息を吐いた。
────と、ここでグレンジャー公爵がふと天井を見上げる。
何かを悩むように指で膝を叩き沈黙すると、彼はおもむろにこちらを見つめた。

「だが、まあ────誰一人欠けることなく、生還出来たのはお前達のおかげだ。お手柄だったな」

「正直、リエート達が駆けつけてくれなかったら危なかったよ。助けてくれて、ありがとう」

「子供三人で、不安だっただろうに……偉かったわね」

 『結果良ければ全て良し』という訳にはいかないものの、きちんと私達の頑張りを称えてくれた。
『よくやった』と口を揃えて言う三人に、私達は少し目が潤む。
事が起こっている最中はそれどころじゃなかったため、大して気にならなかったが────やっぱり、怖かったのだ。
魔物と対峙するのが、人の命を任されたのが、最悪の事態に直面するのが。
どんなに凄い力を持っていても、所詮は子供。
不安にならない筈がない。

「ぅ……っ……ひっぐ……」

 緊張の糸が解けて、私は思わず泣き出してしまった。
それを皮切りに、兄とリエート卿も静かに涙を流す。
そんな私達を、父とクライン公爵夫妻は優しく抱き締めてくれた。
『もう何も心配しなくていいんだよ』と態度で示すように。

 温かい……。

 父の胸に抱かれながら、私は肩の力を抜いた。
心の底から安心したからか、ようやく『生きて帰ってきた』という実感が湧く。
室内に居る討伐隊の人達やリエート卿を見つめ、私は笑みを零した。

 ────嗚呼、勇気を出して良かった。
あの時、もし行動していなかったら……不安で自分の殻に閉じこもっていたら、こんな未来はきっと有り得なかった。
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