お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 『手土産は何がいいかしら?』と悩む私を前に、小公爵は呆然と立ち尽くした。
かと思えば、

「────妾の子(・・・)である貴様が何を……!」

 小公爵は鋭い目付きでこちらを睨みつける。
月の瞳にこれでもかというほど不快感を滲ませる彼は、強く歯を食いしばった。
と同時に、小公爵の周囲を巡るようにして冷気が放たれる。
その途端、地面がパキッと凍った。
鼻の奥がツンとするような寒さを前に、彼は(ひょう)混じりの雪を四方八方へ撒き散らす。
完全に無差別だが、人を殴り殺せそうなほど大きい氷塊は私へ向けられた。

 狙ってやっているのか、それとも無意識にやっているのかは分からないけど……とにかく、不味い状況であることは確かね。
幸い、リディアの身体能力が優れているから避けられそうだけど……って、ん?

「────足が動かない……?」
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