お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 まさか、この女性は────公爵夫人のルーナ・ヴァイス・グレンジャー!?

 よく見ると小公爵にそっくりな顔立ちに、私は『間違いない』と確信を持つ。
が、今は公爵夫人との顔合わせを喜んでいる場合じゃないため、直ぐさま思考を切り替えた。
『とにかく、公爵夫人だけでも逃がさないと!』と思い立ち、私は彼女の肩へ手を掛ける。
迫り来る氷塊を目で追いながら。
『もう時間がない!』と焦りを覚える中、

「────ルーナ!」

 見知らぬ男性の声が耳を掠めた。
かと思えば、目の前に大きな背中が。
ハッと息を呑む私達の前で、彼は手のひらを前へ突き出した。
と同時に、向かってきた氷塊を冷気へ変える。
ついでに周囲の温度にも干渉して、寒さを和らげた。
『凄い……魔術を正確に使いこなしている』と衝撃を受けていると、彼はこちらを振り返る。
その際、後ろで緩く結ばれた青髪がサラリと揺れた。

「大丈夫か!?」

 タンザナイトの瞳に焦りを滲ませ、心配そうにこちらを見つめる彼はどこかリディアに似ている。
『目なんて、特にそっくり』と思案する中、公爵夫人は僅かに身を乗り出した。

イヴェール(・・・・・)!?どうして、ここに!?仕事は!?」

 イヴェール……?って、まさか────イヴェール・スノウ・グレンジャー公爵のこと!?
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