お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 嘘は言っていない……だって、本当に誘拐未遂事件が起きるなら、危険だもの。

 などと心の中で弁解していると、兄が不意にブツブツと独り言を呟く。

「なるほど。それでさっき……」

 納得したように頷き視線を上げると、兄はスッと目を細めた。

「よし、リエート────特待生の子守りは頼んだ」

「え”っ……」

 予想外の方向から攻撃を食らったリエート卿は、思わずといった様子で頬を引き攣らせる。
動揺のあまりダラダラと冷や汗を流す彼に対し、兄は実にいい笑顔を向けた。

「お前、聖騎士だろ。聖女候補の護衛にうってつけじゃないか」

「いや、それは……そうかもしれないけど!俺だって、リディアと……!」

「とにかく、任せた。リディアの方は、僕が面倒を見る」

「いや、待っ……」

「生徒会長命令だ」

 リエート卿の反論を力技で押し込め、兄はカチャリと眼鏡を押し上げた。
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