お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「ところで、ルーシー嬢をその偽物に預けてから何分くらい経つ?」

「……恐らく、三分程度かと」

「それなら、まだ遠くには行ってない……!急げば、間に合うかもしんねぇ!」

 腕捲りしてやる気満々のリエート卿は、『俺に化けてニクスを騙すなんて、許さん!』と息巻いた。
友人に迷惑を掛けた上、護衛対象まで掠め取られて激怒しているようだ。

「とにかく、周辺の捜索をしよう。一応、誰かのイタズラでまだここに残っている可能性も考えて、幾つかチームに……」

「あの!」

 無礼であることは重々承知の上で、私はレーヴェン殿下の言葉を遮った。
驚いたようにこちらを見る三人に対し、私は勇気を振り絞ってこう言う。

「ルーシーさんの捜索、私にやらせてください!」

 分かっている……ルーシーさんの約束を、信頼を裏切る行為であることは。
でも、どうしても不安を拭い切れないの……。
だって、ルーシーさんは『誘拐未遂(・・)』と言ったのよ?
なのに、これは何?果たして、未遂と言えるかしら?
もちろん、捜査の手が届かないところに行く寸前に助けられることを未遂と呼んでいる可能性もある。
でも、そうじゃなかった場合……敵に捕まりそうなところを攻略対象者達に助けてもらう、だった場合────これは彼女にとっても、不測の事態と言えるのではないだろうか。

 などと考えながら、私は校舎裏で教えてもらったことを振り返る。
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