お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
「本当に?嬉しいわ。ありがとう、リディア」

 公爵夫人は弾けるような笑顔を見せて、私に抱きついてきた。
『もう二度と貴方を悲しませない!』と覚悟を示す彼女の前で、公爵は私の肩に手を置く。
と同時に、少しばかり身を屈めた。

「では、まず親子になる第一歩として────私達のことを『お父様』『お母様』と呼んでもらえないだろうか?」

 『もちろん、強制はしないが……』と述べ、公爵はこちらの反応を窺う。
どことなく不安そうな彼を前に、私はふわりと柔らかく微笑んだ。

「はい、お父様」

 早速公爵の呼び方を改めてみると、公爵夫人が顔を近づけてくる。

「ねぇ、リディア。私のことも!」

「ええ、お母様」

 ニコニコと笑いながら要望に応え、私は喜びを露わにした。
父・母と呼んでいい事実が、どうしようもなく嬉しくて。
家族として受け入れてもらえた実感を覚える中、視界の端に小公爵の姿を捉える。
と同時に、ハッとした。
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