その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

90 契約の呪縛*

♦︎♦︎

組み敷いた彼女のあらわになった首筋に、音を立てていくつもいくつも花を散らす。
そのたびにピクリピクリと可愛らしい反応を見せる白い肌を撫でながら、その肌が発する熱を手に馴染ませ、ふくらみを包んでその先端を刺激する。

「っ……ぁっ」

掠れた小さな声。遠慮がちな、まだ少しだけ余裕のある時の彼女の声だ。
ゆっくりと彼女の中に沈めた自身を奥へと押し込んでゆく。

そうすると先ほどの遠慮がちだった声とは打って変わって、余裕のないすすり泣くような声が上がる。
同時にきゅうと握り合った手に力が入って、その手を縋りつくように自身の頬に寄せた彼女の熱い吐息が俺の手をもくすぐる。

可愛らしくて、愛しいひと

わずかな間ではあったものの失うのがとても怖くて、どうにかなってしまいそうなほどに胸が苦しかった。

彼女次第だと口では言いながら、おそらくいざ彼女が離れていくとなったら、どんなみっともない真似をしてでも止めたであろう。
もう、彼女から離れる事なんてできない。


「ぁあっ‼︎ まってっ!もぅ……っ」

彼女が一層甲高い声を上げて、背をしならせる。もう何度と抱いた、それでもまだ足りない。
彼女の全て、その声も、身体も過去も未来も、そして心も。なにもかも全て自分のものにしたい。


達して弛緩する彼女の身体を抱きしめて、絡めた指に光る銀の指輪に口付ける。

こんな仮初め(イミテーション)はもうたくさんだ。

彼女に愛していると言おう。

そのつもりがなかったと言われるのなら、時をかけてそのつもりにさせよう。

「流れ」の関係に終止符を打とう。


♢♢
チュッとリップ音と共に、ゆっくりと丁寧に手を下ろされて、薄れゆく意識の中で、彼の大きくて暖かい手が優しく頬を撫でる感触を感じながら、わたしは目を閉じた。

身体はもう疲れ切っていたけれど、この数日カラカラに渇きを感じていた何かが満たされた満足感と、隣で彼が眠る温もりがとても心地いい。
このまま気持ちがいい場所をふわふわ漂って、そのまますぅっと落ちていく……その瞬間。

「君の気持ち次第だ」

彼の低い声が耳の奥でよみがえる。

彼にとっては、私はその程度だったのだ。

胸の奥がぎゅっとつぶされるような、痛みを感じるけれど、その思考を必死で振り払う。

今更分かっていたことだ、何をくよくよしているのだ。

妻として、女として誰かに譲る事をいとわない存在でしかいられないのならば、ビジネスパートナーとして、譲れない女になればいいのだ。

たとえ心の底から愛されなくても、彼はこうして大切にはしてくれるのだから。
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