その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

91 話し合い①【ラッセル視点】

♦︎♦︎
「差し支えなければ、リドックと話をする時に、彼にこれを渡してほしいの……もちろん中身を見てもらって、あなたが渡してもいいと判断したらでいいのだけれど」


リドックとティアナの過去に起こった事を聞いた夜から3日ほどが経過した。
あれほど多忙だった仕事が少しずつ落ち着く兆しを見せ始めたため、早々に俺はリドックに面会を求めた。
するとすぐに、彼の側に仕えていた初老の男性が我が家にやってきて、クロードとスケジュールを調整して…休日の今日、二人で話す時間を取る事になったのだ。

それを聞きつけたティアナが、随分不安そうな顔をしていたから、考えすぎてしまわなければいいと心配していたのだが……当日になって、真っ白な封筒を差し出してきた。昨晩遅くまで執務室に籠っていたと聞いていたが、どうやらリドックに対して手紙を書いたらしい。

「ありがとう。大丈夫だ、きちんと納得してもらえるように説明するから。」

そう言って手紙を胸ポケットにしまえば、目に見えて彼女がほっとしたのが分かった。
車止めまで見送りについて来た彼女に「昼前までには戻るよ」と告げて、馬車に乗り込むと彼女の手紙を開く。

彼女の真面目さを表すような、美しくそれでいて几帳面な文字を目で追っていく。内容は予想した通りのもので、過去の自身の甘い考えが、彼に間違った解釈を与えてしまった事を謝罪するものだった。
そして今日俺が話すこととティアナの想いに相違はなく、いずれ時間を取ってきちんと謝罪したいと書かれていた。
要は俺と彼の間で、更に話がこじれないように……そんな配慮をしてくれたのだろう。

「少し早めの到着予定ですが……」
手紙を再度封筒にしまい、胸のポケットにしまうと、御者から声がかかる。
あぁ、しまった……。忘れていた、と自嘲する。

「少し寄って欲しいところがあってね。先方の弁護士事務所の、ひと区画北側にある宝飾店に寄ってもらいたいんだ」

「宝飾店でございますか? あの……お二人のご結婚指輪を買われた店でお間違いないでしょうか?」
少しの説明でピンと来たらしい御者に頷いてやれば、彼はそれ以上を問うことなく「承知いたしました」と返事をして、そのまま馬車を走らせた。

あの晩、彼女に何と言われようと、自分の気持ちを伝えようと決心してから、どうするのが一番良いのだろうかと考えて、行きついた先はあの結婚指輪だった。

あれは、いうなれば俺たちの契約の象徴。もちろん購入する際には彼女に似合うもの…彼女の好みのものを選びはしたが、やはりどうしても形式上購入したという流れがあるものである。

今度は、最初から気持ちのがこもった物だと彼女に告げて渡したい。

以前ティアナと二人で店を訪れた際、彼女が気に入って、購入を迷ったデザインのものがあったはずだ。
あのデザインを少しアレンジしていずれ何かの形でプレゼントしたい……そう思っていたのだ。
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