その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜

93 話し合い③ 【ラッセル視点】


「っはぁ~」

馬車に乗り込むとなんとも言えない脱力感を感じて大きく息を吐く。

ついて乗り込んできたダルトンが扉を閉めると、馬車がゆっくりと動き出す。

「あれは、兄と同類ですね。沸点が低すぎる。あれでは奥様に直接合わせるなど」

「あぁ、無理だな。間違いなくフラッシュバックが起きる」

ダルトンの言葉に前髪をかき上げてくしゃりと握る。

「月日が経ちすぎて、彼の中ではあの日の約束は自分の記憶の中のものが全てになってしまっているのでしょう。理解を得るには、なかなか時間がかかるかもしれませんね」

「そんな様子だな。しかもこのためにわざわざ良い思い出のない実家に戻ってきてしまった。彼にとったらせめてもの希望を奪われた感じだろうな」

「奥様が、苦になさらないと良いのですが……」

「確かにな……しばらく、ティアナについてくれないか? もしかしたら俺のいないところでリドックが接触しないとも限らない」

俺の言葉に、ダルトンは驚いた様子もなく神妙に頷いた。

「承知いたしました。ですが、旦那様もご注意を」

「なに、自分の身くらいは自分で守れるさ」

軽く笑って見せるが、ダルトンの表情は硬いままで、彼は「いえ」と首を振る。

「御身もですが……どうもお話を聞いていると、どこからか話が漏れているようにしか思えないのです。お二人の結婚の経緯や旦那様や奥様のスケジュールは、あまり口外されていないはずです」

ダルトンのその言葉はとても意外な事だった。しかし…よく考えてみれば、確かにティアナから契約結婚の事をリドックに話した覚えは無く、彼女も突然その話をリドックに出されて、「どこで聞いたのだろう?」と不審に思ったと言っていた。
そして俺とティアナに絶妙なタイミングでそれぞれ接触してきていた。

「そうだな…確かにそれは…考えた事がなかった」

考えてみれば不可解な事がいくつかある。

特に契約結婚の経緯は、それぞれが一切外部に話をしていない。ティアナ付きの侍女のマルガーナはなんとなく知っているのかもしれないが、軽はずみに外部に話すような者ではない。

自分の側は、今日の同行のために昨日ダルトンに話したくらいで、それ以外は……

不意に浮かんできたのは、一人の人物の顔で……

いや、それはないだろう。

慌ててその考えを思考の片隅に押しやる。

彼こそ立場的にこのような話を口外することがどれほどの危険をはらむのかを良く知っている人である。

「とにかく、相手の要望を待とう」

おそらくダルトンは俺が何かを思い至って、そしてそれを振り切ったのも分かったのだろう。
表情を変えることなく、「承知いたしました」とだけ答えた。
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