シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました

第九話・一周忌

 自宅に僧侶を呼んで、家族だけで静かに執り行った一周忌。呼び寄せたタクシーが到着したので玄関先まで僧侶を見送った後、優香は義母達の待つリビングへと戻ってきた。

「一年なんて、あっという間だったわねぇ。陽太がもう歩くようになってるんだもの……」

 大人達の喪服姿に合わせて黒色のロンパースを着せられた孫を、愛しそうに眺めている。息子二人の体格から想像つかないほど小柄な義母は、以前に会った時よりさらに小さくなったように思う。

 まだ覚束ないながらも一人で歩けるようになった陽太は、得意げにリビング中を玩具を振り回して移動していた。床に散らばっている積木を拾い上げつつ、優香は和室に置いた仏壇に視線を送る。納骨も済み、今朝まであった夫の骨壺はもうここには無い。大輝は石橋家の先祖代々の墓で、早くに亡くなったという義父達と一緒に眠ることになった。

「大輝の位牌も、優香さんが持てあますようなことがあれば、いつでもうちで引き取らせて貰うつもりでいるから、覚えておいて頂戴ね」

 歩いて近付いて来た孫から手に持っていた積木を差し出されて、義母は「ありがとう」とオーバー気味に頭を下げながら受け取っている。陽太は調子に乗って、宏樹の方にも別の積木を渡しに行き、また別の積木をケースから出してきて優香のところへと運んでくる。皆が、陽太の配達ごっこの相手をさせられ、順にお礼を強要されていくという状況。

「そんなことは……」
「いいえ。あなたもまだ若いんだから、これから先に何があるかは分からないんだから」

 仏壇は別でもいいけど、お墓は一緒にしてと姑から言われた時、大輝は長男だから先祖代々の墓は長男の嫁である優香が世話をしろという意味だと思っていた。でも実際は、優香が再婚を考えることがあった時に少しでも足枷を減らしてあげる為だった。その気遣いに、優香は胸がじんわりと熱くなる。

「優香さんのこれからもそうなんだけど、宏樹、あなたにもお話が来てるのよ」
「え、俺に何の?」

 陽太の配達された積木を、本人にはバレないようケースに片づけながら、宏樹が母親を振り返って聞く。義母は鞄からスマホを取り出して、友人から送られたという画像を開き、覗き込んできた次男に得意げに説明し始める。

「こないだ買い物に行った時に安井さんの奥さんに会ってね、姪っ子に誰かいい人いないかしらって言われたから、うちの息子はどう? って。写真見せたら一度会ってみたいって言ってくれてるらしいのよ。で、代わりに送られてきたのが、これなんだけど――」
「はぁっ?! 俺の写真なんか、いつ撮ったんだよ……」
「ええっと確か、この写真だったかしら?」
「……完全な隠し撮りだろ、これ」

 長男が亡くなった時にはショックのあまりに寝込んでしまい、通夜も告別式も参列できなかった義母が、一周忌が終わった直後には次男に見合い話を勧めている。この切り替えの早さは経験値の違いなのだろうかと、優香は横から唖然としながら見ていた。
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