婚約破棄されたら「血みどろ騎士」に求婚されました
 その言葉を聞いて、アニスにもぼんやりと当時の記憶が蘇る。
 辺境伯家の騎士たちに文句を言うとは何事かと注意をしたら、メイドたちが泣いてしまったのだ。
 アニスは未来の王太子妃であるがゆえに、有事の際は真っ先にその身柄を保護されるが、彼女たちは違う。ルディの到着があと少しでも遅かったら、護衛騎士たちに止むを得ず見捨てられる可能性は十分にあった。
 その事実を理解していたからこそ、彼女たちの恐怖心はアニスのそれよりも何倍も強かったに違いない。
 あまり責めるのも酷だと思い、その後は落ち着くまで手を握り、声を掛け続けたのだったか。

「そのときの姿が印象的で、ずっと記憶に残っていた。これほど優しい女性が王子の婚約者であることを喜ばしく思ったが、同時にひどく嘆いたな」
「え……な、嘆くとは」

 つい身構えてしまったアニスに、ルディは肩を竦めつつ告げる。

「これでは求婚できないと」
「…………あ」

 そこでようやく、今の話が「求婚するに至った理由」であったことに気が付き、アニスは己の鈍さやら何やらで耳を赤くした。

「王都のご令嬢は直接的な物言いを嫌うと聞いたが、貴女にはこちらの方が有効かもしれないな。とても助かる」
「へ、辺境伯様、からかわないでくださいませ」
「至って真面目だ。今もどうやって貴女を離さずに話を続けようか真剣に考えてる」
「え? ハッ、申し訳ございません、すぐに離れますっ」

 未だに抱き止められたままの体勢であったことを思い出したアニスは、羞恥のあまり飛び跳ねるようにしてルディと距離を取る。
 そうして至極残念そうに腕を下ろすルディを見ては、ぷしゅうと音が出そうなほど赤面してしまった。

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