恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
「ウエディングの知識はありますし、初対面の人とでもすぐに仲良くなれますから!相手はお忙しいと思うんで、スムーズに話を進めた方がよくないですか?」
「――打ち合わせはマネージャーとするから、タレントに会えるわけではない」
 
 小久保さんの言葉を冷たい声で返したのは美山さんだ。
 その言葉にはたと思い当たる。……そうだ、昨日ゲストが決まったからだ。例年女性の憧れになるモデルや女優をイベントに呼んでいたが、今年は少し趣旨を変えて人気男性俳優にトークイベントを依頼することが決定した。どのようなトーク内容にするか、今週打ち合わせをすると決まったばかり。
 普通のクライアントと打ち合わせするように、若手俳優とも直接打ち合わせができると思ったのか。美山さんの指摘が図星だったらしく、小久保さんは唇を噛んだ。

「当日は俳優さんにご挨拶する時間もありますから、よかったら当日イベント手伝ってください」

 空気を和らげる言葉を投げかけると、小久保さんは少し不満気な顔をしながら「ランチ行ってきまーす」と立ち去った。

「ありがとうございました」 
 私が美山さんに小さな声でお礼を言うと「君はなぜ彼女に何も言わない?」と真剣な顔で聞かれる。

「……適材適所みたいです」
「それでいいのか?」
 美山さんの低い声を受けて、小さく首を振る。

「本当はこんな自分嫌なんです。確かに小久保さんはお話が上手ですし、相手に好かれるのは彼女だと思います。……でも企画営業は企画を考えるだけじゃなくて、相手の反応を伺ってそれをもとにご要望を叶えたり、よりよくしていくのが仕事だと思っているんです」
「その通りだな」

 わかっているのに止められなかった自分が情けなくて恥ずかしい。
 
「これからはもっと努力しようと思います」
「努力?なんの?」
「小久保さんみたいに人に好かれるような――」
「必要ない。営業スタイルは各々違うものだろう。コミュニケーションが得意なやつは確かに営業に向いてるが、それが全てなのか?」

 ストレートな物言いに言葉が詰まる。

「そうですよね…それぞれ違いますよね」 
 私のクライアントにもトークが軽快でコミュニケーションが得意な人もいれば、口数は少ないけど丁寧に応じてくれる人もいる。どの人もそれぞれの良さがある。今までの四年間。ちゃんと誠実に対応すればわかってくれているひとのほうが多かったんだから。

「君は君のよさがある。君が営業向きだと思ったから新卒配属で企画営業にされて、今もそのままなんだろう」
「え?」
「違うのか?」
「いえ、そうかもしれません……ありがとうございます。そうですよね、私ちょっと最近自分を見失ってたかも、です」

 そう言うと美山さんは微笑んでくれた、のだと思う。相変わらず何を考えているかわからないけど彼を纏う空気は優しい。
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