恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
「吉平……まだ残ってたのか」

 ほとんどの社員が帰宅した中、一人パソコンの前にいるとオフィスに岡島さんが入ってきた。
 私がいると思わなかったのだろう。気まずそうな顔を浮かべながら自分の席に移動する。……待ち伏せているとでも思われたかな。
 
「すみません。仕事は終わっていたんですが、新規事業コンペについてまとめたかったので」

 言い訳のように返すと岡島さんはこちらを向いた。そして自分のデスクの上に置いてある封筒を手に取るとそのまま私のデスクに向かってくる。いつものように避けられるだろう、彼はすぐに帰るのだろう、と思っていたから予想外の動きに身体が固まる。
 彼と二人きりになることを全く想定していなかった。

 岡島さんは私の隣――美山さんの席に座ると、眉をさげて私を見つめた。その表情は付き合っていた頃と変わらない。
  
「今日は接待だったんじゃ?」
「そうだよ、今終わったところ。忘れ物をしたから」

 岡島さんの頬は少し赤く、近くに座るとお酒にまぎれて彼の匂いがした。久々の距離に落ち着かない気持ちで椅子に座り直す。

「なずな、すまなかった」

 久しぶりになずなと呼ばれた。そして熱を持った瞳で見つめられるのも久しぶりだ。

「……この後うちに来るか?」
「え」

 身体がさらに固まる。……今、なんて?私たちは別れたんじゃなかった?

「きゃっ……!」
 
 岡島さんの手が私の肩に触れて私は反射的に避けてしまった。とろんとしていた岡島さんの瞳が鋭くなる。

「あ、すみません……驚いてしまって。……私たち、お別れしました……よね。小久保さんに悪いですから」
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