恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
 彼は会議室のひとつに入ると、内から鍵を閉める。

「良かったんですか?」
「行っても良かったのか?」
「……行かないでは欲しかったですけど」
「じゃあいいだろ」

 そう言って椅子にどっかりと座ると、隣の椅子を引き私を誘う。促されるままに座ると、私に向かって手のひらを差し出した。

「お手って意味じゃないぞ」
「わかってますよ!でもたいしたものは入ってないですよ」

 お弁当を差し出すと、美山さんは無邪気な顔をしてお弁当の蓋を開けてすぐに箸をつけた。

「うん、うまい」

 美山さんは私のお弁当の生姜焼きを口に入れて目を細めた。良かった、今日は残り物を詰めただけのお弁当じゃなくて。

「おにぎり食べるか?」
「いただきます」

 美山さんがコンビニの袋を私に押し付ける。中から出てきたのは、彼がいつも食べている鮭おにぎりとたまごサンドイッチ。
 
「手料理なんていつぶりだろうな」

 ジャージ姿の美山さんは食に無頓着そうで毎日鮭おにぎりとたまごサンドイッチしか食べていなかったし。モデルバージョンの美山さんは高級ホテルのレストランを行きつけの居酒屋みたいなものだと言っていた。彼の食生活が全く想像できない。

「卵焼きもうまい」
「私はしょっぱい派ですけど大丈夫でしたか?」
「うん、うまい」

 ラグジュアリーな出で立ちの彼が、少年のように食べる彼の姿を見ると……かわいい。

「今日もどこか取引先行くんですか?」
「行くわけないだろ、俺は営業じゃないんだから」

 昨日とは異なるネイビーのスーツを着こなし、髪型もすっきりとまとめている。まじまじと見つめる私に気づいた美山さんは

「この姿だと女が寄ってきてうっとうしいからあの格好をしてた」
「もう解決したんですか?」
「彼女ができれば問題ないだろ。邪見にする理由ができる」
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