恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
「吉平さん、なんだか美山さんに懐かれてないですかぁ?」
 小久保さんが言う通り彼はよく私のもとにやってくるし、気づけばオフィスの席が隣になっていた。
 懐いているというよりも、業務の合間に私の企画書を読みたがる。まだ彼の業務に関わる段階ではなくとも、企画が会議で通る前でも、いつも熱心に目を向けている。

「入場受付ブースがやたら大きいな。これはなぜだ」

 二カ月後に予定されているウエディングイベントの会場図を読みながら美山さんは私に訊ねた。

「受付で属性を割り振るからですよ」
「属性?」
「はい。三つの属性に分けるんです。結婚式場を探しているカップル。式場は決まっていて式中の演出や指輪やハネムーンを検討しにくるカップル。婚約もしていない未来の顧客カップルなど。受付で軽くヒアリングして、色分けしたネックストラップをかけます。昨年受付に長蛇の列が出てしまいまして…それを解消するために、受付に大きくスペースと人員を割こうと思っています」

 私が答えると、美山さんはため息をついた。

「改善方向を間違えているな。その場合に必要な事は受付をもっと簡単に済ませる事だろう」

 反対意見を出されると思わなかったので面食らいつつ、彼の意見に耳を傾ける。
 
「入場する際に自身のスマホで属性を答えさせたらいい。QRコードをかざせば印刷できるようにしておいて、来場者自身でネックストラップに入れさせる」
「そのシステム二カ月で開発可能ですか?」
「俺を誰だと思ってる、当たり前だろ」

 表情は髪の毛に隠れているが、自信満々なのがわかる。

「しかし天下のダイスエンジンだというのにシステムに頼らないとは……有能なプログラマーがPR事業部にほとんど配属されていないことも問題だな。新しいシステムを作ろうとせずに既存の考えのまま行っている。優秀な者をゲーム事業の方に送りすぎているな……」
 
 美山さんはぶつぶつと呟いている。前の部署に戻りたくなってしまったのだろうか。

「PR案件は単発ですから開発工数がかかるシステムの開発は乗り気ではないのです」
「受付システムは他のイベントにも流用できるだろう。単発で見ずに長い目で見た方がいいこともある」

 美山さんは言葉をオブラートに包むことをせずにどんどん突っ込んでくるけど、勉強になることが多い。
 彼の言う通り、せっかく優秀なプログラマーが多いこの会社なのだから、もっとその強みを生かした企画を考えた方がいいかもしれない。
 私自身の発想には限界があるけど、美山さんと話しているとシステムで解決できることも多いのだと知る。企画の幅が広がる!美山さんとの会話は有意義で、話していて楽しかった。
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