恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
「岡島さん、C社の件で相談したいことがあるので少しお時間をいただけないですか?」

 企画書を持って岡島さんのデスクまで出向くと、彼の目はわかりやすく泳ぎ気まずそうな顔に変わる。

「すまない。ずっと外に出ているから難しいな」
「急ぎではないので明日でも大丈夫です」
「あー…じゃあメールで送っておいてくれるか?目を通しておくよ」

 無理に作ったであろう笑顔を私に向けると、彼は席を立った。

 あからさまな態度に唇を噛む。岡島さんは仕事上でも私と関わるのを避けている。
 プライベートな話ではなく本当に仕事の相談をしたいのに…二人きりになれば復縁を迫るとでも思っているのかもしれない。
 公私混同して、直属の上司としての役目を果たしてくれない彼にも、その程度の扱いを受ける自分にも、情けない気持ちがこみあげる。

 仕方ない、メールで要件を送るか。口頭であれば十五分もあれば終わる話なのに、わざわざメールのやり取りになるだなんて。ずっとこのままだとやりにくいな。復縁の考えはなく、困らせるつもりもないことは伝えたほうがいいかもしれない。 
 自分の中で、復縁するつもりがなくなっていることに気づく。あんなに憧れていた人に日に日に失望するのは切なかった。

「ふふ、なんだか二人ってお似合いですね」

 席に戻りお弁当箱を開いたところで、上から声が降ってくる。小久保さんがいて、隣でおにぎりを食べていた美山さんと私を見比べている。顔から全身まで無遠慮に見る彼女の笑顔には含みが感じられる。
 私は外に出ないからと思ってラフなセーターとロングスカート。色合いも地味で野暮ったく見えるかもしれない。
 隣にいる美山さんは今日も愛用のジャージを着ている。色もはげてきているし、だぼだぼなくせに彼の長い手足は収まりきらず手足首が見えていた。

「お待たせ、小久保いくか」

 ぱりっとしたスーツを着こなした岡島さんが戻ってきた。隣に立つ小久保さんは、雑誌の働きOLの着回し一週間に出てきそうな恰好で…二人はお似合いだ。

「D社の最寄り駅にオススメのランチがあるんですよっ!」

 小久保さんは彼の腕に手を添わせた。まるでいつも腕を組んでいるかのように。岡島さんは私たちの目線に気づいたのか、やんわりとそれを避け小声で何か小久保さんに言っている。皆の前では困るよ、あらかたそんなところだろう。
 岡島さんに言われて初めて気がついたかのように小久保さんは私たちを見ると、どこか嬉しそうに微笑みながらその場を去った。
 彼女が残した笑みが鉛のように喉につっかえる。

「まだあの男のことが好きなのか」
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