恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
 美山さんは二人をぼうっと見送りながら、ストレートに訊ねてくる。
 まわりに興味がなさそうな彼が、人の恋愛事情を知っているのは意外だ。

「どうなんでしょう。よくわかりません」
 岡島さんのことが好きだった。優しくて頼りがいがあって誠実で。そう思っていたけど最近は「彼ってこんな人だったっけ」の連続だ。

「ふうん」
 自分から質問したわりにあまり興味はなさそうな声を出した彼は「ん」と私に手の平を差し出した。

 …なんだろう。
 とりあえず彼の手のひらに自分の手を乗せてみると、彼はゴホゴホと大きくむせた。

「おい、なんだこの手は」
「…お手なのかと」
「そんなわけないだろ」

 彼の表情はいつだってわからない。だけど髪の毛の隙間から見える頬が赤くなっていることに気づく。手を乗せるのはどうやら間違いだったらしい。彼の反応に私まで頬が熱くなる。

「C社の企画書。貸せ、俺が見てやる」
「あ、ああ!そうですよね、あはは、すみません」
「お手を求めるわけないだろう」

 怒っているようで照れを含んだ言葉に、かわいいと思ってしまう。そんなことを言ったらまた怒られるだろう、私は頬を緩ませながら、先ほど岡島さんに見てもらうはずだった企画書を差し出した。

「お願いします。ここの会場導線が気になっていて」
「うん、これは変更した方がよさそうだ」

 仕事モードに戻った美山さんは的確なアドバイスをくれる。美山さんはプログラマーで、企画営業は専門職ではないはずだ。なのに彼の視野は広くアイデアも多かった。

「しかしいい企画だ。前回のイベントの弱みをつぶしている」
「あ、ありがとうございます!」

 彼は一見冷たく見えるし、なんでも遠慮せずに言う。だからこそそんな彼に褒められると嬉しい。くすぐったい気持ちを隠しきれなくなりそうで、私は企画書で顔を隠した。
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