恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
『新規事業案募集!社内コンペのお知らせ』

 全社に社長から送られたメールは、その日一番の話題となった。
 様々なサービスを展開しているダイスエンジンの、新たな主力となる事業部のコンペを開催するという知らせだ。審査は社長がつとめ、採用された案は実際に事業として運用していくことになる。

「採用されたらそのまま事業部長になれちゃうってすごい」

 昼休み。有希が私のもとにやってきて皆が持ち切りの話題を出した。

「でもこれすごいのが社長がその場に来て審査するらしいのよ!ついに社長の顔が見える!」

 これが大きな話題となる一つの理由だった。
 私は四年在籍していながら社長に会ったことはない。少し変わった人らしく、メディアはもちろん社内でも顔を見せることはない。面接も社長は別部屋でモニターで見ていただけで、直接言葉を交わしたこともなかった。
 年齢、学歴やプロフィールもすべて不明で、知っているのは「深山大也(ふかやまだいや)」という名前だけ。それも偽名なんじゃないか、実は女性なのではないかと噂されているくらいなのだから。

「それでなずなはこのコンテスト出すの?」

 質問を受けて言葉に詰まっていると。

「その様子だと何か案はあるんだ?」
「…でも皆の前で話す自信はなくって。有希は?」
「私はそもそもそういう考えるの苦手だから、全然なーんも。頑張ってみたら?」
「考えるだけ考えてみるよ」

 有希が立ち去ると、隣の美山さんがサンドイッチをかじりながら私を見ていた。

 ――そうだ。美山さんと一緒にというのはどうだろう。
 このコンペは単独でも、チームでもどちらで参加してもいい。美山さんと一緒にやれるならきっと楽しい。
 
「よかったら私と一緒にやりませんか?」
「やらない。俺は俺で考えてるものあるから」

 だけど返ってきた言葉はそっけなかった。仲良くなれたと思っていたけれど、少し調子に乗ってしまったかな。
 気まずさと恥ずかしさから私は「ですよね」と笑顔を返すが、美山さんはどうでもよさそうにパソコンに目を戻した。
< 9 / 43 >

この作品をシェア

pagetop