好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
あれは盗聴器――。千歳さんが?
ドラマのように繰り広げられる展開についていけず、呆然に立ち尽くすことしかできない。
千歳さんが持つ盗聴器を見た瞬間、佐伯さんは血が上ったように顔を赤く染める。
「信じられないっ! 最低なんだけど! 会話を勝手に盗み聞きして……。訴えますからね⁉」
「好きにしろ」
悪意の含んだ目つきで睨まれても、千歳さんは動じなかった。
そして、わざとらしく思い出したかのようにいう。
「あっ、さっきは流し忘れてたんだけど、続きもあったんだった」
「続きって……まさか」
佐伯さんは、ハッと何かに気づくと顔色は蒼白になり、言葉をぽつりと吐き出した。
さっきまでの威勢は消えていた。
「事を大きくして困るのはどっちだろうな?」
「も、もういいです! 訴えませんから。それ! 返してください」
ゆらりとかざしていた盗聴器を、勢いよく奪い取るとその場から逃げるように歩き出した。
会議室のドアノブに手をかけた瞬間、千歳さんは冷たく言葉を投げかける。
「香坂のこと罠に嵌めて喜んでたよな? 逆に罠に嵌められた気分はどうだ?」
「……さいっあく」
佐伯さんは、こちらを振り向くことなく震えた声を残し、会議室を後にした。
千歳さんと佐伯さんの会話の意味ができず、視線を送ると彼は得意げな顔で笑っていた。