魔女さんとナイト
 行き倒れた旅人に生命力を全て渡して消えてしまおうと決めた、あの時。

 私は彼自身の生命力を考えていなかった。

 もう少しで力尽きるという時に、旅人が目を覚ましそうになったのだ。

 つまり彼はあの時の旅人に違いない。

 姿を見られる前に逃げたつもりだったけれど、遅かったのだ。

 泥だらけで顔はよくわからなかったけれど、今見ると確かに彼だったと思う。

「またお会いできて良かった」

 旅人は微笑んだ。

「渡したいものが……あ!」

 旅人は家を出ると、しょげた顔で戻って来た。その手には、萎れた花束がある。

「すみません……」
「いえ」

 その時、ものすごい音がした。
 割れた窓ガラスを前に、私はまたか、とため息をついた。
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