エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
「苦労したのはじいさんじゃなくて、シェフだろう。かわいそうに」

 晴馬のツッコミに善次郎はカラカラと笑う。

「そのとおりじゃな。当時のシェフとは今でもいい友人だが、彼はとんでもない有名人になってしまったぞ」

 善次郎の明かしたシェフの名前に美月は目をみはる。日本でもっとも著名な料理人と呼べる人物だったからだ。

 お喋り上手な善次郎のおかげで、ディナーはなごやかに進んだ。けれど、美月と晴馬の視線は一度も交わっていない。

(晴馬の顔を……見るのが怖い)

 キスなんかしなきゃよかった、面倒なことになった。そんな顔をされるのでは?と思うとおじけづいてしまう。

(おじいさまの前で仲良し夫婦のふりをしないといけないのに……ダメだな)

 案の定、善次郎はふたりの様子に気づいたようだ。

「ところで、喧嘩でもしたのか?」

 食後の紅茶を優雅に飲みながら、彼は晴馬と美月の顔を交互に見る。

「えっと」
「そんなことないよ。ふたりとも仕事が忙しくて、少し疲れ気味でね」

 うまい言い訳の思いつかない美月に代わって晴馬が答える。

「でも、今夜はうまい飯を食べさせてもらって元気が出たよ。なぁ、美月」

 晴馬はこちらに顔を向けるが……やはりその瞳は美月をとらえてはいない。

 見ないふりをしている傷口が、また少し開いてしまった。

「はい。これで明日からまたがんばれそうです」
< 117 / 180 >

この作品をシェア

pagetop