エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 けれど、そんなの百も承知で、それでも美月は母を助けに行きたかったのだ。

(俺の判断は、間違いなく正しかった)

 こうして消防士になった今ならよくわかる。子どもふたりで向かっても、なにもできやしない。自殺行為どころか、救助活動をする消防士の邪魔になって、かえって被害を拡大させるだけだ。

(だけど、考えてしまう。もしあのとき、美月と一緒に彼女のお母さんを助けに行っていたら? 一パーセントくらいは可能性があったのでは?)

 その後悔の念が、晴馬を消防士にした。

「なるほどね。知り合いを火事で亡くしたことがあったのか」

 初恋の子の母親。なんてところまでは語らなかったが、かつて火事の現場に遭遇し知人の死を目の当たりにしたことを晴馬は話した。

「はい。あんな思いをする人間をひとりでも減らしたくて、だから消防士に」
「素晴らしい志望動機だ。けどな、イケメンがかっこいいこと言うのは卑怯だぞ」

 そんなふうにちゃかして、伊沢は晴馬の頭を軽くはたく。

「なら聞かないでくださいよ」

 懇親会は楽しかったが、晴馬の思考はふとその場を離れる。懐かしい話をしたからだろうか。

(美月……今、どうしてるかな?)

 母の死をきっかけに、彼女は海外に行ってしまった。その後どうしているのかは、まったく知らない。あの火事は、晴馬の日常から美月を奪った。

「好きだよ」
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