エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 諦めかけた晴馬の脳裏に、彼女の姿が浮かぶ。

『おかえり、晴馬』

 美月の笑顔と明るい声が、晴馬を現実に引き戻した。晴馬は目を見開き、指先にグッと力を入れる。

(そうだ。俺が帰らなかったら、きっと美月が心配する。もしかしたら泣くかもしれない)

 いつも強がっているけれど、彼女は意外と涙もろい。だから、なにがなんでも自分はここから脱出しなければならないのだ。

 渾身の力を振り絞って、手のひらで床を押す。上半身を起こし、膝をついた。あとは右足を出して立ちあがるだけ。その瞬間、グンと強い力で晴馬の身体は引きあげられた。

「北原っ、いけるか?」

 先ほどの同僚が避難誘導を終えて、助けに戻ってきてくれたようだ。隊の合言葉は『全員で必ず帰る』だから。

「――当たり前だろ」

 力強く答えた晴馬に、彼はホッと息を吐く。

「強がれるなら心配ないな。よし、帰るぞ」

 彼の肩を借りて、晴馬はどうにか火の手から逃れた。

 心地よい温度の新鮮な空気を吸い込むと、晴馬は大きく胸を撫でおろす。
 無事に脱出できた今、思うことは……美月に会いたい。それだけだった。

「無事で……本当によかった」
「帰ってきてくれて、ありがとう」

 火傷を負った自分を心配して涙を流す美月を前にしたら、これまで晴馬を制御していたストッパーなど音を立てて割れてしまった。いつかの佑馬の声が、耳に蘇る。
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