エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 これが現実だと認識するのを脳が拒む。まるで映画のなかに入り込んでしまったみたいで、リアリティがない。自分の足はちゃんと動いているのか。この声はお客さまに届いているのだろうか?

(ダメ、しっかりしなきゃ)

 美月は自分の頬をパンと思いきり叩く。

(私はパールトンホテルのコンシェルジュよ。お客さまを守る、責任があるわ。それに、きっと助けが来る。消防士もレスキュー隊員も来てくれるから――)

 今、美月がいるのは三十二階。連泊で室内に滞在しているお客さまが多かったので、避難誘導に当たっている。爆発物が仕掛けられていた三十六階には、もうかなり火の手が回っているらしいと聞こえてきていた。

(三十六階はスイートルームフロア。連泊のお客さまはいらっしゃらないし、今夜予約の方はまだお見えになっていなかった)

 時間的に、ベッドメイクはもう終わっていたはず。あのフロアには従業員も含め、誰もいなかった。そう信じたい。白状すると、ネガティブなことを想像するのが怖いのだ。考え出したら、恐怖で一歩も動けなくなりそうで……。

「避難経路は確保してあります、どうか落ち着いて。ハンカチで口元を覆ってください」

 お客さまにそう訴えながらも、不安はじりじりと忍び寄ってきていた。

(……暑い。呼吸が苦しくなってきた気がする)
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