エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 今はまだ炎も黒煙も見えないが、熱気と嫌な匂いは確実に濃くなっている。いつこのフロアが火の海になるともかぎらない。

『火災が恐ろしいのは、急激に様相が変わるからなんだ。小さな火に見えていても、ある時点をこえるといきなり延焼しはじめる。フラッシュオーバーと呼ばれる現象だが、こうなると防火服を着ている消防士でも危険になる』

 晴馬から聞いた話をやけに鮮明に思い出す。

(その現象が起きる前にお客さまを避難させないと)

 でも、希望も見えてきている。先ほどから、消防車のけたましいサイレンがはっきりと耳に届いていた。救助が来てくれているのだ。

「よし、我々も避難するぞ」

 お客さまの後ろを追いかける形で美月たち従業員も退避の態勢に入る。腰を低くし、ハンカチで口を覆って素早く移動する。そのまま非常用階段を使って下階におりていく。

 外の新鮮な空気が肺に入ってきて、ホッとすると同時にあらためて恐怖に身がすくむ。こわごわながら上に視線を向けると、燃えさかる炎と立ちのぼる黒煙が見えた。けれど、その上空に真っ赤なヘリが浮かんでいるのも確認できる。そこから白い霧のようなものが噴出している。名称はよくわからないが、おそらくヘリから消火活動を行っているのだろう。

(晴馬たちが、エアハイパーレスキューが来てくれてる!)

 炎におじけづきそうになった心に力がみなぎる。美月はギュッと強く指先を握った。
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