エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
(晴馬たち消防士が、命懸けで助けに来てくれているんだもの。足手まといになるわけにはいかない)

 自分の足で、しっかりと避難しなくては。美月は一歩一歩、階段をおりていく。ところが――。まだ安全かと思われていた下から黒煙があがってくる。

(え?)

 煙は上に広がっていくものとばかり思っていたが、いつの間にか下階まで浸食されていたらしい。

 火事で多くの人の命を奪うのは炎ではなく煙。美月でもその程度の知識はある。この状況で下に逃げるのは危険、かといって上はもう真っ黒で何も見えない。
 
 美月と一緒に逃げていた男性従業員のふたりは、非常階段に取り残されてしまった。

「ははっ。終わり、かなぁ」

 隣にいた彼の乾いた笑いが深い絶望を呼び寄せる。諦めかけそうになった美月の脳裏に晴馬の笑顔が浮かぶ。

(私は……まだ終われないよ。晴馬に会って、自分の気持ちを伝えないと)

 二十年前の後悔をそのままにしたままでは絶対に死ねない。美月は隣の彼をキッと見据える。

「終わりじゃないです! 絶対に助けが来ますから」

 その言葉にかぶさるように、彼の声がはっきりと耳に届いた。

「美月、美月っ!」

 赤いヘリから垂れるロープ、それを伝って美月のもとに着地したのは……美月が会いたくてたまらなかった人だ。

「は、晴馬っ」

 太陽みたいにまぶしいオレンジ色、レスキュー隊の制服に身を包んだ彼がそこにいた。
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