エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 なんでもない顔で笑いながら、少しだけ胸が重くなったことに気がつく。

(観覧車……晴馬となら楽しいだろうなって、ウキウキしてた)

 夫婦の演技じゃなくて、本当に彼とのデートを楽しんでしまっていた。

(変だよ、私。省吾さんとあんなことになって、恋愛はもうこりごりだと思っていたはずなのに)

 自分でも、この感情の揺れの正体がよくわからない。

 傷心のところを優しくしてもらって、ときめいた? 自分はそんなにお手軽な女だっただろうか。

「美月、どうかしたか?」

 心配そうに彼が顔をのぞき込んでくる。

(晴馬は優しい。だけど……自惚れちゃダメだ。私がこうして彼の隣にいるのは、ただのビジネスなんだから)

 美月は静かな笑みを返す。

「ううん。そろそろ帰ろうか」

 この感情の正体なんか、知らなくていい。むしろ、突き詰めたら晴馬の迷惑になる。そう言い聞かせて、蓋をする。

(大丈夫よ。感情を抑えるのは得意なほうだもの)

 ふたり並んで、遊園地の出口に向かって歩き出す。家族連れは自分たちと同じように帰途についているせいか、園内にはカップルの姿がやけに目立つ。

 晴馬は彼らを見てクスリと笑う。

「やっぱり本物と比べると……俺たち、ちょっと距離があるな」

 手は繋いでいるけれど、身体は少し離れている。カップルというより、親子のような手の繋ぎ方かもしれない。

「こんな感じかな?」
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