エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 美月の返事に彼の顔がパッと輝く。その無邪気な笑顔に、美月の感情があふれ出す。

(晴馬といると調子が狂う。気持ちに蓋をするのは得意だったはずなのに……)

 きっと今、自分は〝嬉しい顔〟を隠せていないだろう。

 少し並んだけれど、思ったよりスムーズに美月たちの順番が回ってきた。

 向かい合わせに座ったふたりを乗せて、ゆっくりと上昇していく小さな箱。美月は大きな窓にかじりつくようにして外の景色を眺める。夕暮れどきの、赤く染まりはじめた街がノスタルジックな気分にさせてくれる。

「綺麗だな」
「うん」
「あのさ……」

 晴馬にしては珍しく、ためらいがちに言葉を続ける。

「美月が付き合ってた男、前に帝都グランデで会った彼のこと……もう少し聞いてもいいか?」
「うん、大丈夫だけど」

 そう答えたけれど、美月の頭には疑問符が浮かぶ。

(さっきは、話の流れで自然に話題にあがっただけだと思ったけど、どうして晴馬が省吾さんのことを気にするんだろう)

 彼は正面から美月を見据えた。そしてストレートに問いかける。

「今も……あいつに気持ちが残ってる?」

 晴馬の瞳が揺れる。どこか苦しげな声で彼は続けた。

「同じ男として、あんな別れ方する人間は最低だと思う。美月は別れて正解だったと断言できる。けど……好きだった気持ちをそう簡単に消せないことも理解できるから」
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