エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
(あ。もしかして、それで観覧車に誘うのをためらったのかな?)

 さっき晴馬は『美月に拒否されたら』と言っていた。美月がまだ元恋人を忘れていない、晴馬はそう考えたのかもしれない。

「俺たちは夫婦だから、美月が今、どんな気持ちでいるのか知っておきたい」

 彼の強い眼差しに射貫かれる。

(省吾さんへの気持ち……)

「もう残っていないよ」

 自分でも驚くほど、スパッと答えを出せた。美月はちょっと笑って、正直な思いをさらけ出す。

「彼は職場の先輩で、すごく仕事ができて憧れの人だった」

 人間の長所と短所は表裏一体だ。彼の強引さは頼りがいでもあったし、惹かれた部分すべてが嘘だった……とまでは思いたくない。

「でもね、あの人はこの遊園地を私の思い出の場所だと知っても『子どもっぽい』と笑ったの。さっき、私が彼の話で微妙な顔になったのはそれを思い出したからで……未練があるわけじゃないよ」

 省吾は、美月の気持ちを大切にしてくれる人ではなかった。

「彼と付き合い続けていたら、こうしてここに来ることもなかったんだよね。だから、別れてよかったと心から思ってる」

 それは本心からの言葉で、晴馬に向ける表情も晴れやかだ。

「強がりじゃなく、そう思えているから心配しないで」
「――そっか」

 ホッとしたように彼は大きく息を吐いた。それから、顔をあげて「じゃあさ」と続ける。
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