エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
「もう一歩、夫婦らしくしてもいいか?」

 落ち着いた低い声は男らしく、美月をドキリとさせる。狭い空間にふたりきりだということを、あらためて意識してしまった。

「えっと、夫婦らしく?」
「そう。こっちおいで、美月」

 彼は片腕を広げ、反対の手でポンポンと叩く。向かい合わせではなく隣に座れという意味だろう。

「う、うん」

(と、隣に座るだけよ。別になにも色っぽいことじゃない)

 そう必死に言い聞かせて、彼の隣に腰をおろす。ふわりと晴馬の香りに包まれた気がして、どうしようもなくドキドキしてしまう。

(いやいや、意識しすぎだよ。これじゃ晴馬に笑われちゃう)

 アワアワしながら隣に目を走らせれば……涼しげな顔で景色を眺めている晴馬の横顔がある。ホッとしたような、少し悔しいような、複雑な感情が美月の胸に渦巻く。

(ほら、晴馬はなにも意識していないじゃない。……ん?)

 涼しい顔に見えた晴馬の耳がほんのりと赤く染まっているのに、気づいてしまった。

「もしかして、晴馬も照れてる?」
「……わざわざ指摘しないでくれ」

 ぼやく彼の姿はなんだかかわいい。

「だって! こっち来てって、自分から言ったくせに」

 意識しているのは自分だけじゃなかった。それが思っていた以上に嬉しくて、美月の頬は無意識に緩む。
 眼下の街がだんだんと小さくなっていく。

「あ、見て。ちょうどてっぺんだよ」
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