男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
 だって、嘘つきとかそういう風に思われたら立ち直れない。……けど、それって。

(なんで、そう思うの……?)

 上司との間に信頼関係が必要だから……ということでは、ないような気もしてしまう。

 眉間にしわを寄せてそう考えてしまって。丞さんが「あの」と声をかけてこられるまで、じっと俯いてしまっていた。

「……その、俺がいたら話しにくいことなら、俺はとりあえず少し離れていますけれど」

 絶対に、気を遣われた。

 瞬時にそれを悟って、私はぶんぶんと首を横に振る。

「本当、大したことじゃないのです」
「そう、ですか」

 丞さんはそこで話を切り上げてくださった。正直、これ以上深入りされるとぼろが出てしまいそうだったので、助かった。

 どうしてか。丞さんには、色々と話してしまうのだ。

「で、あの、用件、ですが……」

 話題の変え方が露骨だったような気もする。が、丞さんはそこに突っ込んでこられることはなく。

 大きく頷いてくださった。

「……あんまり、重要な案件じゃないんですけど。職権乱用とか、思われそうなんですけれど」
「別に、全然大丈夫です」

 どうせ私は独り身で、用事もないし。

 そういう意味を込めて笑えば、丞さんが「とりあえず、場所を移動しましょう」と言ってくださる。

「この近くに、個室のあるレストランがありまして。そこの部屋を予約しているので、行きましょう」
「え、あ、はい……」

 なんだろうか。これって、ただのデート……のような、気もする。

 丞さんがさりげなく私の手を取られたから、余計にそう思うのかも。

(でも、一度関係を持っただけで恋人って、そういうの、私が思っていいもの……?)

 ……考えようによっては、思いあがっていると思われないだろうか。

 けど、いや、でも……。

(頭の中、ぐるぐるしてる……)

 もう、どうすればいいかわからなくて。結局、私は彼に連れられるがまま移動することしか出来なかった。
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