男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
「いや、本当、答えたくなかったら、答えなくて構わないです」

 私の態度を見て、丞さんが慌ててそう付け足される。……慌てたような声、表情はあんまり動いていないようだけれど。

「……いません。恋人とか、好きな人とか」

 なんだか隠すのも変な話なので、私はそう返す。

「そもそも、今まで恋人がいたためしもありません」

 ぽつりとそう零したとき、信号が青になる。私が前に向けた視線を、彼に戻す。

 ……凝視されていた。

「杏珠、さんって」

 彼がなにかを言おうとして。それでも、歩くほうを優先されたらしい。

 私に「行きましょう」と言って足を前に進められる。私は、頷いて彼の後を追った。

(というか、先ほどの問いかけってなに? もしかして、脈ありとか、そういうこと……?)

 けど、よくよく考えて。身体の関係を持った相手の恋人の有無を気にするのは、当然ではないのだろうか?

 ……本当、今更だけれど。
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