疫病神の恋

「結城さん、入荷チェック行きましょう」
「すみません、おひとりでお願いします」

 仕事だけはきちんとやる。そう決めていた。けれど、そんな余裕もなくなっていた。

「でも、二人でやる方が効率的です」
「じゃあ他の方に声をかけてください。もう仕事の流れは把握しているはずです」
 本来、特にペアが決まっているわけではない。数人の方が効率がいい仕事であれば、それぞれ声をかけあって適当に組んで作業をする。

 パソコン画面から視線を逸らさずに断ることが、どれほど失礼なのか分かっている。嫌われても仕方がない。

「一度、きちんと話をさせてもらえませんか?僕が気に触ることをしてしまったのなら謝らせてください」

「鈴木さんが謝ることなんてなにもありません!」
「じゃあどうして避けるんですか」
「それは——」

 俯いたまま、言葉が詰まった。

「それは、わたしが……」

「ねぇあれ、火事じゃない?」
 窓際がザワザワとし始めた。
「ここから結構近いね。大丈夫かな」

 心配そうに北の方角を指さす人の隙間から外を覗き込む。
 もくもくと舞い上がっている黒煙の方向は……。嫌な予感はだいたい当たる。
 幸は咄嗟に駆け出した。
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