疫病神の恋
 行きついた先では、ちらほらと人が集まりかけていた。古い木造アパート。二階角部屋の窓が割れて、外に向かって炎が逃げている。

 乱れる息のまま鍵を取り出し、一階の角部屋に向かう幸の腕を、誰かが強く掴んで引きとめた。

「何をしてるんですか!ここは危険です!」

 幸と同じように息を乱している彼が、声を荒げる。
 追いかけられていることに気がついていなかった。

「放してください!中に、中に大切なものがっ」
 幸は酷く取り乱していて、カタカタと震える手から鍵を落とした。

「どこにあるんですか?」
「え……?」
「早く答えて!」
「べ、ベッドの脇に……」

「あなたは離れていてください!」
 落ちていた鍵を拾ってドアノブに差し込んだ彼が、部屋の中に消えていった。

 古い木造なだけあって、火の回りが早い。

 幸の部屋は、炎が出ている部屋の真下だ。
 それなのに、彼を止めることなく代わりに行かせてしまった。

 最悪の状況を想像してしまい、全身が震え出す。

 近づいてくるけたたましいサイレンの音が、まるで頭の中で直接響いているようだった。
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