疫病神の恋
 両手で顔を覆って、震えながら蹲っている幸にそっとぬいぐるみを差し出す人がいる。

 ゆっくりと顔を上げた幸の瞳からは、大粒の涙がこぼれていてる。

「ご、ごめんなさ……わ、わたしの、わたしのせいで……」
 壊れ物を包むように、両肩にそっと添えられる手。

 くまのぬいぐるみを抱えたままびくりと身を竦める幸はまるで、幼い女の子のようだった。

「あなたのせいじゃない」

 消防隊が次々と駆け付けて、周りは騒然とし始めている。
「ここにいては消火活動の邪魔になる。行きましょう」
 悠生が、幸にそっと手を差しのべる。

 差しのべられた手を振り払うだけの強さは、家と一緒に燃えてしまった。

 その手にすがったら、あとからもっと苦しい思いをするかもしれない。させるかもしれない。
 けれど幸は、自分に向けて差し伸べられるあたたかい手を、取らずにはいられなかった。
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