疫病神の恋
 あれは中学校三年生になったころ。
 桃香の父親が突然倒れた。

 発見が早く大事には至らなかったが、少しでも処置が遅れていたら、後遺症が残ったかもしれないと言われたそうだ。
 桃香の父親は医者で、倒れたのが勤務先の病院だったことが不幸中の幸いだった。

 引き取られた家の中で、居場所がなかった幸に、唯一優しくしてくれた人。

——お父さんが倒れたのは幸がこの家に来たせいよ。あんたがいるから、みんな病気になるのよ!

——この疫病神!あんたが不幸を撒き散らしているのよ!

 桃香と、彼女の母親から、口々にそう言われた。

 自分のことを、可哀そうだと思ったことはある。でも、だから優しくされて当然だとは思わない。
 自分の不幸と周りの日常は関係ない。叔父家族を、巻き込みたかったわけじゃない。


「高校は、寮がある学校を選びました。そして人と深く関わらないようにしてきました。そのおかげか、周りで大きな怪我や事故もなくこれまで過ごせてました。なのに——」

「もしかして、歓迎会で佐々木さんがガラスで指を怪我したこと、それも自分のせいだと思ってるんですか?」

 幸は再び頷いた。

「だから、わたしに近寄らないでください。優しくしないでください。お願いします。もう、嫌なんです、誰も傷つけたくない」
< 17 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop