疫病神の恋
あれは中学校三年生になったころ。
桃香の父親が突然倒れた。
発見が早く大事には至らなかったが、少しでも処置が遅れていたら、後遺症が残ったかもしれないと言われたそうだ。
桃香の父親は医者で、倒れたのが勤務先の病院だったことが不幸中の幸いだった。
引き取られた家の中で、居場所がなかった幸に、唯一優しくしてくれた人。
——お父さんが倒れたのは幸がこの家に来たせいよ。あんたがいるから、みんな病気になるのよ!
——この疫病神!あんたが不幸を撒き散らしているのよ!
桃香と、彼女の母親から、口々にそう言われた。
自分のことを、可哀そうだと思ったことはある。でも、だから優しくされて当然だとは思わない。
自分の不幸と周りの日常は関係ない。叔父家族を、巻き込みたかったわけじゃない。
「高校は、寮がある学校を選びました。そして人と深く関わらないようにしてきました。そのおかげか、周りで大きな怪我や事故もなくこれまで過ごせてました。なのに——」
「もしかして、歓迎会で佐々木さんがガラスで指を怪我したこと、それも自分のせいだと思ってるんですか?」
幸は再び頷いた。
「だから、わたしに近寄らないでください。優しくしないでください。お願いします。もう、嫌なんです、誰も傷つけたくない」
桃香の父親が突然倒れた。
発見が早く大事には至らなかったが、少しでも処置が遅れていたら、後遺症が残ったかもしれないと言われたそうだ。
桃香の父親は医者で、倒れたのが勤務先の病院だったことが不幸中の幸いだった。
引き取られた家の中で、居場所がなかった幸に、唯一優しくしてくれた人。
——お父さんが倒れたのは幸がこの家に来たせいよ。あんたがいるから、みんな病気になるのよ!
——この疫病神!あんたが不幸を撒き散らしているのよ!
桃香と、彼女の母親から、口々にそう言われた。
自分のことを、可哀そうだと思ったことはある。でも、だから優しくされて当然だとは思わない。
自分の不幸と周りの日常は関係ない。叔父家族を、巻き込みたかったわけじゃない。
「高校は、寮がある学校を選びました。そして人と深く関わらないようにしてきました。そのおかげか、周りで大きな怪我や事故もなくこれまで過ごせてました。なのに——」
「もしかして、歓迎会で佐々木さんがガラスで指を怪我したこと、それも自分のせいだと思ってるんですか?」
幸は再び頷いた。
「だから、わたしに近寄らないでください。優しくしないでください。お願いします。もう、嫌なんです、誰も傷つけたくない」